東京〜現実歪曲フィールド界隈

東京で外資系企業の営業で働く人

第五章(1)線形的思考と化学的思考

化学的思考法を紹介する第五章は、まず常識的な線形思考と並べ、違いを理解することから始める。

線形的思考とは

線形的思考とは、原因と結果が直線上に並ぶ考え方である。
あるインプットに対して、予想可能なアウトプットが得られる。
やったことが、やった分だけ見返りが得られる世界だ。

勉強で言うと、公文式みたいな感じ。
努力は、あなたを裏切らない。
工場での単純生産も同じ。
生産量を2倍にすれば、製品も2倍できる。
売り上げも2倍だ。

説明しきれない現象

だが、高校入試、大学入試と進むほどに、
投入した努力に比例して、結果が出なくなる。

運動も同じだ。
あるレベルを超えると、
単純に練習量だけでは乗り越えられない壁が現れ、
悩むことになる。

工場の生産でも、
3倍にしようとしたら、想定外のトラブルが出て、
むしろ生産効率が低下することもある。

昨日と今日、したことは同じだが、
なぜか、結果が違う。
想定外が発生する。
前進したつもりなのに、
結果は停滞か、逆に悪くなってる。

こうした現象は、線形の世界では見られない。
だから、「非線形」と呼ばれる。
簡単には解けない問題で、
プライベートにとどまらず、経営の文脈でも使われることが多い。

[新装版] 企業参謀 戦略的思考とは何か大前研一氏は、非線形思考の重要性を指摘している。

個々の要素の特質をよく理解したうえで、今度はもう一度人間の頭の極限を使って組み立てていく思考方法である。

と紹介しているが、正直わからない。
人ぞれぞれの頭脳任せと読めなくもない。
しかも、直線的ではないと言っているだけで、構造まではわからない。

化学的思考法とは

化学は、非線形の世界と非常によく似ている。

教科書には、
  A + B → C + D
という化学反応式が載るが、100%そのようになることは稀だ。
通常は招かざる副反応が起きる。
そして、訳のわからない副反応物ができる。

すでに完成されている化学反応には、実験のレシピが存在する。
それ通りにやれば問題なさそうだが、素人はそうはいかない。

レシピというように、化学実験は料理とよく似ている。
料理でレシピ通りに調理したつもりでも、
期待通りの出来上がりにならない時がある。
分量を間違えると大変だし、
「さしすせそ」のように加える順番も大事だ。

料理のように、化学の世界では直線関係にならない。

  • 曖昧さは無く、
  • 条件を変えれば、結果が変わり、
  • 手順を変えただけでも、結果は変わる。

だから本書は「化学的」と呼ぶ

化学は、この世界をそのまま引き受ける学問である。

相性と相互作用

化学は、「相互作用」を扱う科学である。
人と人の相性と相互作用を、あの人とはケミストリーが合う、
というのはそのためだ。

二つの物質が出会うとき、
そこに生まれるものは単なる和ではない。
条件が変われば、生成物は変わる。
温度、圧力、濃度、——
わずかな違いが、全く異なる結果をもたらす。
これは、料理と全く同じだ。

それは、予測可能な線形的な世界ではない。
AとBがあればCになるという単純な因果ではない。

AとBは、環境という場の中で、
互いに影響し合いながら、新しい秩序を生成する。

この「反応」の世界観こそが、化学的なのである。

地味だが、世界を作ってきた学問

化学は華やかな理論で新聞を賑わせることは少ない。
非常に泥臭い学問である。
化学で有名な理論?
世間の誰もが知っているものは、ほぼない。

しかし20世紀以降、
人類の生活をさまざまな物質の創造で支えたのは、化学である。

新しい化学物質を作るのは、化学の一つの目的である。
新規で、新奇な化学物質を作り、新しい世界を創造する。

豊かな素材、合成高分子、医薬品、電気電子材料——
それらはすべて、条件を精密に制御する化学の成果である。

化学物質の汚染による環境問題を指摘する向きもあるが、
その解決策もの原因も、化学の射程内にある。

目立たないが、根底にある。
抽象ではなく、具体を扱う。
理想ではなく、現実を制御する。

その知的態度こそが、
本書でいう「化学的思考法」の源泉である。

次節では、化学という学問の構造をさらに掘り下げ、
そこから導かれる思考の原理を明らかにしていく。