東京〜現実歪曲フィールド界隈

東京で外資系企業の営業で働く人

第四章(5)複雑化する世界と科学

知的生産ツールは非常に有用だが、使い方次第だ。
そこで第四章では、使い方と問題に焦点を当てた。

その結果、5つの問題を指摘し、その根底には
「とめる(止める、留める)」と「とまる(止まる、留まる)」の問題
があることを見出した。

つまり、私たちは、

  1. 時を止めて
  2. 見方を留めて
  3. 時にはプロジェクトが停まって

しまいやすいのである。

その一方で、私たち自身も含め、世界は絶えず動いている。
とめたり、とまってしまっては、世界からズレる。
でも私たちは、「とめること」をやめられないし、「とめたこと」すら忘れてしまう。
これは態度の問題であって、是非の問題ではなかった。
だから前節では、「とめる・とまる」を超えた「次の視点」を考察した。

次の視点とは、
「動いている世界をそのまま見つめ、動きの中から静止画像を抽出する視点」
である。

科学的手法の導入

しかし、「次の視点」は非常に哲学的だ。
これを私たちの日常に導入するのは難しい。
もう少し導入しやすくする、工夫が欲しい。

20世紀は、科学的手法を労働や生産の現場に導入した。
その結果、社会の生産性を飛躍的に高めた。
21世紀は、科学的手法を「次の視点」に導入する。
他でもない、私たち自身のために。

導入条件

「次の視点」に導入する科学の条件は何だろうか?
残念ながら、20世紀に労働や生産の現場に導入した「科学」をそのまま「次の視点」には導入できない。

動いている世界をそのまま見つめ、
動きの中から静止画像を抽出する視点

すなわち

  • 動いているという状態
  • 動きの中から静止画像を抽出
  • そのまま見つめる範囲

について、適切な「科学」を選択することだ。
上から順に行こう。

動きを前提とすること

第一に、動的で変化を扱う科学であることだ。
本書では、繰り返し「世界は変化し続けていること」を指摘している。
変化し続けることが前提である。

適切なモデルを形成できること

静止画像を抽出するというのは、「適切なモデルを形成する」ということである。
適切なモデルとは、さまざまな条件検証に多大な時間や莫大なコストを必要としないことである。

複雑さが適度であること

そのまま見つめることができる範囲は広くない。
管理できる範囲、認識できる範囲は、広くできない。

以上をまとめると、

  1. 動きを前提とすること
  2. 適切なモデルを形成できること
  3. 複雑さが適度であること

この3つの条件を満たす、科学を探すことになる。

妥当な科学

「新しい視点」に適用可能な、科学を探してみよう。
まずは、数学から。

  • 動きを前提とすること:*
  • 適切なモデルを形成できること:*
  • 複雑さが適度であること:*

数学が扱う対象は、高度に抽象化され、一般化されている。 それゆえに、広範性をもつ。
しかし、具体的な世界の変化を扱うには、やや距離があると言わざるを得ない。

次に物理学古典物理学と現代物理学を両方合わせて確認する。

  • 動きを前提とすること:**
  • 適切なモデルを形成できること:**
  • 複雑さが適度であること:**

物理学は、ロックがいうところの第一性質(Primary qualities)を扱う自然科学である。
第一性質とは、存在、物の形、大きさ、動きなどのことである。
物理学の焦点は、個別の事象よりも普遍的な法則の抽出にある。
条件依存の変化そのものをテーマにはしない。

そして、化学

  • 動きを前提とすること:***
  • 適切なモデルを形成できること:***
  • 複雑さが適度であること:***

化学は、第二性質(Second qualities)に関わる自然科学である。
第二性質とは、色や味や匂いのような五感に訴える性質である。大きいか小さいかというのとは異なり、このような性質は個別的で現れ方が多様である。
また、物質の立ち振る舞いを記述する言語とも例えられ、反応容器でさまざまな条件を設定でき、実験による検証が可能である。

さらに、生物学はどうだろうか?

  • 動きを前提とすること:**
  • 適切なモデルを形成できること:**
  • 複雑さが適度であること:**

生物学がカバーする範囲は、細胞レベルから生態系まで幅広い。
扱う変数は非常に多く、個体差や環境依存性を無視できない。
モデル化しても、条件の切り抜きが容易でなく、時間軸も長い。

最後に、地球科学

  • 動きを前提とすること:*
  • 適切なモデルを形成できること:*
  • 複雑さが適度であること:*

地球科学は、時間と空間のスケールが巨大である。
そのため、実験室レベルでの条件変更と検証が難しい。
私たちの日常の思考様式からの距離は、数学とは異なる意味で遠い。

以上の評価から、「化学」が最も妥当性が高い。

化学的思考法

動いている世界をそのまま見つめ、
動きの中から静止画像を抽出する視点

に導入可能な自然科学は、「化学」である。
化学を導入すれば、「次の視点」を得やすくなる。
だが、そのために大きな転換を必要とするだろうか?

だ。
化学的なものの導入に、化学の専門知識は必要ない。
導入」であって、何かを変える必要はない。
パッチを当てるように、少しの上書きをするだけである。

第五章では、「化学的思考法」について基本的な姿勢を紹介する。