多忙で、多様な毎日を送る私たちは、
「成功の方程式」のような万能解に憧れる。
そういうものがあれば、本当にいい。
でも、残念ながらそのようなものが存在するほど
この世の問題は簡単ではないし、単純ではない。
あるのは特定の状況で有効な「最適解」の群れだ。
どれを選び、どの方向へ向かっていくのかは、
現在地たるAS-ISと、目的地たるTO-BEのギャップから
方向を捉えていく。
そのギャップを掴む指標にKPIがあり、
様々なKPIの中から、現状を正しく観察した結果のKPIを用いて、
選択した「最適解」が今もなお有効であるか、確認し、
すでに起きている未来たる、先行指標のKPIを参照して、
TO-BEへ向かうための方策を実行していく。
この行程は、まるっきりPDCAサイクルを回しているようだ。
- PlanでAS-ISとTO-BEを定義し、
- Doでギャップをベースに最適解を選び、試す。
- Checkで最適解が機能しているかKPIで評価し、
- ActionでTO-BEへ向かうための方策を実行する。
AS-ISとTO-BEを再確認する
こうして私たちは、PDCAサイクルでいうところの、2周目に突入する。
上昇する螺旋(スパイラル)の次のフェーズにレベルアップしたのです。
私は、最初にこのことに気がついた時、正直ズッコケてしまいました。
あれ、振り出しに戻ったんじゃないの?
いいえ、そうではないのです。
私たちは、ひとまわり成長して。
次の段階に入ったのです。
ですから、再びPlanなのです。
なぜならば、
コントロールしてよいものだけに集中して、適切にコントロールする
第二章(4)制御とKPI〜何をコントロールできるか - 東京〜現実歪曲フィールド界隈
ことを学んだからなのです。
もう、これまでの私たちとは違うのです。
それではさっそく、AS-ISとTO-BEを見直してみましょう。
特に、これらを記述するKPIに注目します。
4つの分類でKPIを分け、コントロールして良いものとそうでないものを見極めるのです。
してはならないこと、この見極めがまず大事です。
操作変数以外のKPIはコントロールしようとしてはダメなのです。
とはいえ、直接操作したい欲求に駆られるKPIを良くしたい。
良い方向に持っていきたい。
それは、誰もが持つ本能です。欲求です。
誰にも止めることはできません。
それでは、どうしたらいいのか?
それを考えるのが、2周目のPlanなのです。
改善したいKPIをどうするか、
答えは、AS-ISとTO-BEにあります。
相互の関連性とプロセス
もう少しだけ、具体的に考えてみましょう。
これから二つの例題を出します。
どちらも、共通して、KPIの改善を目的とした短絡的な改善を試み、
本質的な問題に気がつかないで、状況を悪化させるミスを犯す
ことが学べるケースです。
ケース1:ボトルネック滞留時間
あなたは、ある製品のリードタイムを短縮するプロジェクトを担当することになりました。
一連のプロセスを分析したところ、製品の塗装工程が全体の遅延の原因となっていることが分かりました。
塗装工程では、色変えの段取りに時間を要するため、
同じ色をまとめて塗装した方が効率的だとされている。
その結果、前工程から仕掛品は届いているものの、
塗装工程に投入されるまでの滞留時間が発生しているのです。
この滞留時間を減らすことで、全体の生産性を最適化できそうだ、とあなたは確信しました。
あなたなら、どのような改善を提案し、ボトルネック滞留時間を減らしますか?
ケース2:意思決定回数
あなたは、繰り返し行われるあるタスクの業務改善を目的としています。
AS-ISの分析の結果、そのタスクの実行プロセスには、多くの「意思決定ステップ」が存在していることがわかりました。
プロセスマップを書くと、判断を要する菱形が非常に多いチャートであることが明らかになりました。
これは、KPIでいう「意思決定回数」が、他の繰り返しタスクと比べて突出して多い状態を意味します。
インタビューの結果、その意思決定の多くは、判断基準が明文化されておらず、担当者の経験や裁量に委ねられていることがわかりました。
意思決定回数が多いと、そのたびに決定者のリソースが必要になり、プロセスは頻繁に停止します。
結果として、流れが寸断され、全体として非効率になります。
では、この意思決定回数そのものを減らすにはどうしたら良いのでしょうか?
ケース1:ボトルネック滞留時間 の解説
塗装工程が全体の遅延の原因となっているならば、
塗装工程の生産性を改善すれば良いのではないか、
と考えるのは、ごく自然な発想である。
だが、少し待ってほしい。
塗装工程の滞留時間が長いのは、それを計測した結果わかったことだ。
そもそも色変えにおける工程のロスが大きいので、効率化のために滞留時間が増大しているのである。
塗装工程はすでにベストを尽くしている。
それなのに、リードタイムの圧縮の時と同じように、
- 塗装工程の人員を増やす、
- 24時間体制にする、
- 「頑張れ」と根拠のない励ましをする。
こうした対応をとっても、滞留時間が短縮されないのは、当然なのである。
なぜならば、このボトルネック滞留時間は、
原因ではなく、私たちが状況を観察した結果として現れたKPIであり、
分類上は観測変数にあたるからだ。
以上のように、
少なくとも塗装工程そのものに問題はなさそうだ。
では、問題の本質はどこにあるのだろう?
それは関係性だ。
私たち人は、人間関係で苦しむように、
プロセスでは前後関係で苦しむのだ。
塗装工程の前工程は、
塗装工程が抱える制約を理解しているだろうか?
色変えによるムリ・ムダを最小化できるよう、
次工程を意識した流し方をしているだろうか?
このように考えを進めていくと、解決の糸口が見えてくる。
ボトルネックである「塗装工程」にとって都合の良い仕事の塊を
前工程から塗装工程に流すのが、正解なのだ。
つまり、前工程のWIP(Work in Process: 着手済み未完了タスク)の量をコントロールするということなのだ。
このように、操作すべきKPIは、構造の中から立ち上がってくるのである。
ケース2:意思決定回数 の解説
このケースでは、
あるタスクの実行プロセスにおいて、
「意思決定回数」というKPIが多いということがわかった
というケースである。
ここでも、意思決定回数というKPIは観測変数である。
したがって、意思決定回数を直接減らそうとしても、意味がない。
むしろ、有害ですらある。
判断を急がせたり、
省略したりすることで、
誤判断や手戻りを増やしてしまうからだ。
意思決定回数が多い、
それも、判断基準が明文化されていないのが原因なのだから、
プロセスそのものに問題がある。
判断基準を明文化し、
自動的に処理できるように工夫するなど、
プロセス設計における改善が求められるのである。

コントロールすべき対象は構造の中に
ここまで見てきたように、
KPIをいくら並べても、
それだけでは「何をどう変えるべきか」は見えてこない。
必要なのは、
課題の構造を理解することである。
何をすれば、
どこが動き、
何がどう変わるかを
知ることである。
次の章では、
問題をCase-by-Caseで分解し、
構造として捉えるための思考法を導入する。