問題
ある製品の販売が不振(売上高が前年比−20%)で、
その原因を報告するように業務命令が下された。
の第2のステップに取り掛かる。
第1のステップでは、事実を補強する証拠を集めた。
- 販売数量と単価に分析したデータ
- 地域別に販売結果を抽出したデータ
- 顧客別に販売結果を抽出したデータ
- 販売ルート(直販・商社経由・外部サイトなど)
さらに、環境に関するデータ
- 製品がターゲットにしているマーケットの成長性
- 競合の動向
- 市場シェアの変化 など
を集めた。
ここから、分析(解析)に取り掛かる。

共通性を見出す
まずは、販売数量と単価に切り分けたデータを確認する。
売上高 = 販売数量 X 単価
のように、MECEに分けられる。
単価はほぼ変わらないが、販売数量が前年対比で23%も落ち込んでいるようだ。
販売数量について、さらに地域別、顧客別、販売ルート別に分析してみたが、特別に傾向が見当たらない。
一方で、環境は変化していないだろうか?
製品がターゲットにしているマーケットの成長性を見るデータを一つ一つあたってみると、マーケットの成長性が著しく鈍化していることがわかった。
このことは、先月の会議で営業から同じ声が上がっていたことを覚えている。
一方で、競合動向、市場シェアはどうか?
こちらは自社の営業の努力で、競合を上回り、シェアを拡大していることがわかった。
すなわち、シェアは拡大しているのに、
マーケットの成長が鈍化したため、
前年の反動が出て売上数量が23%の減少にいたった
との仮説が生まれた。
このように、ステップ1で集めた事実とその証拠を分析して、共通項、規則性、法則性を見出していく。
その過程では、従来の知的生産手法にあるように、フレームワークやKPI、イシューツリーなどの構造化のツールを活用する。
なお、この作業の最中に、「異質な事実・証拠」に出会うかもしれない。これらの扱いは、次に述べる。
大事なことは、これらの異質なものは排除することなく、見失わないように、記憶に留めるなり、ノートなどに書き留めるなどして記録しておくことだ。
そしてこの行動こそが、シンプル化することのリスクを理解する態度の実践そのものだ。
この共通性を見出す作業は、既存の知的生産手法が大いに活用できる。
特別に新しい手法を必要とするわけではない。
化学だって、既存の装置を活用する。
しかし実は、化学の真骨頂はこれからなのである。
特異性を見出す
例外を肯定する態度が活きる2回目の舞台である。
そして、シンプル化するリスクを理解する態度の実践でもある。
これまでに分析した結果をもう一度眺め直してみる。
何か変わったデータ、例外として弾き出されそうなものはないか?
共通性にこだわるばかりに、見逃している視点はないだろうか?
顧客別の売上の動向を見たが、上位20%の顧客しか見ていない。いつもの顔ぶれが並んだリストだ。これらで全体の売上の82%を占めている。
パレートの法則に従って、上位20%だけを分析するのは、効率の面からは理にかなっている。だが、これこそ、例外を切り捨てている行為でもある。
例外になりそうなものについて、仮説を立ててみる。
この場合、一番例外となりやすく、見落としてはならないものがある。
それは新規顧客だ。
そこで、残り18%の売上を顧客別に分析してみた。
単純に、前年の売上がなく、今年にだけ売上がある顧客だけをピックアップしてみた。
すると、全く聞いたことのない名前の会社が3社あった。
さらに、この3社の案件を担当した営業に聞いてみた。
どうやら、我々がターゲットとしている市場以外の用途で購入されたようだった。
これこそが、まさに特異性である。 特異性を探すことにより、新しい用途への販売機会が見つけられたかもしれない。
もちろんさらに突っ込んだ分析は必要である。
しかし、普段通りに、主要顧客だけをみていたら、
このような特異性には気がつかなかったかもしれない。
同じように、先に記憶・記録した、異質な事実・証拠についても分析を深めてみる。
その結果、これまでは気がつかなかった、新しい視点が得られるかもしれない。
ここでは幸運なケースを説明したが、逆の場合もある。
文字通り、ゴミのような事実・証拠であるかもしれない。
感覚的には、そのような場合の方が多い。
しかしながら、時間と労力が許す限り、異質なものも検討したい。
特異性と非線形思考
大前研一氏の 考える技術 (講談社文庫) に、こんな興味深いエピソードがある。
右側に勝率の非常に高い営業、左側に勝率の低い営業、真ん中に平均点の営業に座ってもらい、三人1組でインタビューを行う。
このように、誰が成績が良く誰が悪いかを知った上で、三人に質問する。
質問に対する受け答えを観察すると、売っている営業と売っていない営業の違いがわかる。
これこそまさに、共通性と特異性を見出すためのテクニックと言えるだろう。
私たちは、とかく平均で考えてしまいがちだ。
その方が効率がいいからだ。
そして、大半のケースでは、共通性でだいたい説明がつく。
しかし、従来の方法が通用しない、非線形の世界では、
分布の端に注目する。
平均や中央値を見ていては通用しないからだ。
分布の端とは、特異性のあるデータである。
このように、
共通性は、世界を説明するが、
特異性は、世界を説明する理論の更新を迫る。
これは化学という学問の形成で、何度も起きたことだ。
例外や新規な特異な現象は、既存の理論の矛盾を突き、変更を迫った。
特異性を説明する普遍性を持った新しい理論が誕生し、さらに化学は強固な論理性を確立した。
全てはその連続だった。
新しい理論を獲得すると、
昨日と同じ景色が、ちょっと違って見えてくる。
世界そのものは変わらないが、
私たちが見る世界が変わっていく。
それは、未来そのものだ。
特異性とすでに起こった未来
1964年にP. F. ドラッカーは、「すでに起こった未来」というコンセプトを提示した*1。
未来は、ある時点を境に突然始まるのではない。
先行して「すでに起こった未来」が存在しているのだ。
このすでに起こった未来は、
新しい用途での新しい顧客の事例のように、
これからの未来の先駆けなのかもしれない。
特異性とは、 今、現在の理論では説明しきれない現象だ。
例外を肯定し、
その現象を受け入れ、理解されたとき、
理論が更新されて、
世界の見方が変わる。
そのとき、未来が始まる。
特異性から制御へ
未来の始まりを知覚できたのなら、
少しでも望ましい未来を引き寄せたい。
望ましい未来となるように制御するのも、
化学の手法を応用する。
化学は、条件をコントロールすることで、
望ましい物質を得やすくする。
私たちは、このコンセプトを応用する。
つまり、私たちも、条件をコントロールすればいい。
適切なコントロール・ユニットを探すのだ。
*1:Managing for Results, Chap. 11 The Future That Has Already Happened






